更新日:2023.06.14
前記事では遺産分割協議書の進め方や注意点をご紹介しました。
この記事では、進め方や注意点、協議がまとまらない場合の対処法について紹介します。
Contents
遺産分割協議とは、相続人全員で話し合い、亡くなった方の遺産をどのように分けるかを決定する手続きのことを言います。
遺産分割協議に法的な期限はありません。
ただし、遺産分割協議書を必要とする他の手続きについては期限があります。
それぞれについて解説します。
相続税には様々な特例や減税措置があります。
これらを利用するには、遺産分割協議書が必要です。
相続税の申告と納税の期限は、相続の開始を知ったときから10か月までとなるので、このときまでに遺産分割協議書を作成しなければいけません。
もし10か月で協議がまとまらなかった場合は、法定相続分で申告と納税を行います。
申告時に「申告後3年以内の分割見込書」を提出することで、遺産分割協議がまとまった後に改めて申告することができます。
このとき、納めた税金が多い場合は「更正の請求」によって返金を受けることができます。
当然ですが、納めた税金が足りない場合は不足分を納税します。
相続した不動産の登記を行うには遺産分割協議書が必要です。
相続不動産の登記は、所有権を取得したことを知った日から3年以内にしなければなりません(2023年4月より新法施行)。
遺産分割協議がまとまらないときは法務局に「相続人申告登記」を申し出ます。
相続人申告登記は、所有者が亡くなり相続が発生していることと、相続人であることを法務局にお知らせしておくものです。
相続人申告登記はあくまでも一時的な対応のため、遺産分割協議書ができ次第、正式に登記を行わなければなりません。
遺産分割協議がまとまらない場合は、遺産分割調停を検討します。
遺産分割調停は次の場合に家庭裁判所へ申し立てることができます。
家庭裁判所へ申し立てると、裁判所から相続人全員に調停への呼び出しの通知が送られます。
その後、裁判官と調停委員2名(この3名を「調停委員」といいます)と共に遺産の分け方について話し合います。
調停でも話し合いがまとまらなかった場合、「遺産分割審判」に移行します。
遺産分割審判では裁判官が遺産分割の内容を決定します。
つまり、遺産分割審判では、調停で希望した内容と異なる結果になる可能性があります。
2023年4月1日から、特別受益と寄与分を相続財産に含めた遺産分割について、家庭裁判所へ申し立てられる期限が相続発生から10年に制限されます。
特別受益とは、一部の相続人だけが被相続人(亡くなった人)から生前に贈与などで受けた利益をいいます。他の相続人との公平を保つために、特別受益は相続財産に加算して相続分を決めなければいけません。
一方、寄与分とは、被相続人の生前に、財産の維持や増加に貢献した相続人に、より多くの財産を引き継ぐことをいいます。
例えば、被相続人の介護を行って、介護費用の節約をした相続人にその分を加算するといった具合です。
この改正は家庭裁判所へ申し立てられる期限についてのもので、遺産分割協議ができなくなるわけではありません。
また、相続人全員が承諾している場合、相続開始後10年以上を経過した特別受益や寄与分を遺産分割に含めることもできます。
遺産分割協議書を作成するには、相続人全員での遺産分割協議が必要です。
では、遺産分割協議はどのように進めるのがいいでしょうか。相続が発生してから遺産分割協議までの手順について説明します。
① 相続人を確定する
② 遺言書の有無を確認する
➂ 相続財産を確定する
④ 相続財産の評価をする
⑤ 分割する基準を決める
⑥ 相続財産を分割する
⑦ 遺産分割協議書を作成する
①~④については別記事「相続税申告の流れについて」で詳しく説明していますので、そちらをご参照ください。
⑤~⑦が遺産分割協議の手順となります。
⑤分割する基準は相続人の間で決めることができます。
基本的に法定相続分を基に決定することが多いです。
故人の看護や介護をしていた相続人には他の相続人よりも多く分割するといったことを決めます。
分割の基準が決定したら、⑥の分割を行います。
不動産など現物を割合通りに分割できない財産の場合は、代償金などで公平になるように調整します。
代償金とは、分割割合よりも多く財産を受けた相続人から、少ない相続人へ多く受けた分を現金などで負担することです。
相続財産の分割が整ったら、⑦遺産分割協議書を作成し遺産分割協議は終了します。
遺産分割協議書の書き方については後の章で説明します。
遺産分割協議の流れについて説明しましたが、注意しなければいけない点がいくつかあります。
他の法律行為と同様に、未成年者は単独で相続人にはなれません。
法律行為であれば親権者が代理人となりますが、相続においては親権者が代理できないことがあります。
その場合、親権者は裁判所へ特別代理人の申請を行わなければいけません。
未成年者が相続人となるケースとして、親が早くに亡くなるといったことがあります。
夫婦と子ども2人(どちらも18歳未満)の家族で、父親が亡くなった例で考えます。
このとき相続人となるのは、妻と未成年の子ども2人です。
しかし、子どもは未成年のため、単独で相続人にはなれません。
母である妻が子どもの代理人となると、自分に有利なように遺産分割をする恐れがあります。
つまり、妻は子ども2人と利益が相反する立場(利益相反)のため、子の代理人となることはできず、裁判所によって選任された特別代理人が子の代理を務めます。
特別代理人の必要性は、実際に妻が子どもに不利な分割をするかどうかではなく、外形的にみてその可能性があるかないかで考えられています。
つまり、上の例で妻が子どもの代理を行い正当な分割をおこなったとしても、その分割は無効となります。
遺産分割協議を行うには協議の内容を理解し、判断できる能力が必要です。
判断能力のない相続人が行った遺産分割協議は無効となりますので、注意が必要です。
例えば、高齢夫婦と子ども2人の家族の例で考えます。夫が亡くなり、高齢の妻と子ども2人が相続人になりました。
妻は認知症を患っていて、後見人は長男が務めています。
通常、後見人は本人に代わって法律行為を行えます。
しかし、このケースでは本人である妻と後見人である長男は共に相続人となるため、利益が対立する可能性があります。
つまり、長男は妻の代理をすることができません。
このように後見人と被後見人(本人)の利益が対立する可能性がある場合は、未成年者と同様に裁判所へ特別代理人の申請を行うことになります。
遺産分割協議書を作成し、協議が成立したあとにやり直しをしたい場合には、合意解除が必要になります。
合意解除には相続人全員の合意が必要です。
民法上は合意解除によってやり直しができますが、税務においては相続人間で贈与や譲渡があったとみなされ、贈与税や所得税が課される可能性があります。
思わぬ税負担を負わないためにも、基本的に遺産分割協議書はやり直しを行わないと考えていた方がいいでしょう。
遺産分割協議書は必要な場合と不要な場合があります。
必要な場合は、相続人全員が協議して決めなければなりません。
遺産分割協議書の作成自体に期限はありませんが、相続税申告や相続登記には遺産分割協議書が必要となり、それぞれに申告期限があります。
遺産分割協議書はさまざまな手続きで必要になりますので、作成について不安があれば税理士や司法書士といった専門家に相談すると安心です。
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