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配偶者居住権について

更新日:2023.12.27

◇配偶者居住権とは

配偶者居住権は、建物の所有者である夫婦の一方が亡くなったときに、その後も配偶者が同じ建物に住み続けられる権利です。夫または妻が亡くなったことで、配偶者が住まいを失うといったことをなくすため、令和2年4月1日以降に発生した相続から適用されています。

配偶者居住権は建物を所有権と居住権に分ける考え方です。居住権は配偶者が取得し、所有権は他の相続人が取得します。所有権に相続税がかかるように、配偶者居住権にも相続税が課されます。

配偶者居住権とは別に、配偶者短期居住権という権利もあります。ここではまず、配偶者居住権について説明し、あとの章で配偶者短期居住権についてお伝えします。

 

◇配偶者居住権の要件

配偶者居住権を設定するには、下記の要件が必要です。それぞれについて解説します。

1法律上の配偶者のみ

配偶者居住権を設定できるのは、法的な配偶者のみです。内縁の妻といった、法的に配偶者でない場合は認められません。

 

2被相続人の所有する建物に居住していたこと

亡くなった夫婦の一方が所有する建物に、亡くなるときに居住していなくてはいけません。

 

3遺言書、遺産分割協議、死因贈与、家庭裁判所の審判で設定

配偶者居住権は、令和2年4月1日以降に亡くなった方の相続から設定できます。亡くなった日が令和2年4月1日よりも前で、遺産分割協議が令和2年4月1日以降にまとまった場合、配偶者居住権は取得できません。遺言書で配偶者居住権を遺贈する場合も、令和2年4月1日以降に作成された遺言書でなければいけません。

 

4登記

配偶者居住権は上記1~3の要件を満たせば取得できますが、第三者へ権利を主張するためには登記が必要です。登記は所有者と共同で行わなければなりません。配偶者居住権を登記できるのは、建物のみで土地には設定できません。また、亡くなった人が(被相続人)が配偶者以外の人と建物を共有していた場合には、配偶者居住権は対象外となります。

 

◇配偶者居住権に適したケース

配偶者居住権はどういった場合に使うべきか、通常の遺産分割とどう違うのか疑問に持たれている方もいらっしゃると思います。配偶者居住権に適したケースは主に2つありますので、それぞれについて説明します。

 

1配偶者の居住を確保したい場合

通常、配偶者が住み続けるには、所有権を取得するか、所有者から借りなければいけません。遺産の内容によっては、配偶者が所有権を相続することが難しい場合もあります。子どもなどの他の相続人と関係性がよくない場合、建物の所有権を相続した子どもらから立ち退きを迫られる可能性もあります。こうしたリスクが考えられるときには、遺言書によってさだめておくことで配偶者居住権が取得でき、安心して生活することができます。

 

2相続財産のほとんどが居住不動産の場合

遺産に現金が少なく財産のほとんどが居住不動産の場合、配偶者が居住不動産を取得すると、他の相続人は遺産を相続できません。この場合には配偶者が不動産を相続し、他の相続人に代償金を払うか、建物は配偶者が、土地は他の相続人が相続するなどします。しかし、これらの方法には代償金を払えないリスクや、土地の所有者が他人に売却した場合に立ち退きを迫られる可能性もあります。こうした場合に配偶者居住権を使うと、不動産の所有権は配偶者以外の相続人に相続され、配偶者は亡くなるまで住む権利を得られます。

 

◇配偶者居住権の3つのメリット

配偶者居住権を取得すべきケースがわかったところで、配偶者居住権のメリットを紹介します。主に次の3つが考えられます。

 

1配偶者は無償で居住できる

配偶者居住権は無償で、原則配偶者が亡くなるまで住み続けられる権利です。同じように無償で居住できる方法として、「使用貸借」があります。使用貸借は第三者に主張することができません。これまで子どもが所有していた建物に無償で住んでいたとしても、物件が第三者に渡った場合には賃料の請求をされる可能性があります。一方、配偶者居住権は登記をすることで、所有者が他人になった場合も無償で住むことを主張できるので、使用貸借よりも強い権利です。

 

2配偶者は納税資金や生活費を相続できる

配偶者居住権は、建物を所有権と居住権という2つの権利で分ける考え方です。配偶者が住むところを確保するために不動産を相続すると、遺産分割割合を超過してしまい、現金など他の遺産を相続できないケースがあります。不動産を所有権と居住権に分けると、配偶者は残りの遺産分割割合で現金も相続できます。現金を相続することで、納税資金や生活資金の確保が可能となります。

 

3二次相続対策になる

両親のいずれか一方が亡くなったときを一次相続、残された親が亡くなったときを二次相続といいます。相続税では一次相続時に、配偶者は配偶者控除を受けられます。しかし、二次相続では利用できる大きな軽減措置はありません。そのため、一次相続時の遺産分割方法によっては、二次相続での相続税の負担が重くなる可能性があります。この二次相続の対策として、配偶者居住権が有効です。

配偶者居住権は配偶者が亡くなると消滅し、相続財産に含まれません。3000万円の建物で、1000万円が配偶者居住権、2000万円が所有権とした場合、二次相続時には配偶者居住権1000万円は消滅し、課税財産はなしとなります。他方、一次相続で配偶者が3000万円の建物を相続すると、二次相続では3000万円の遺産について課税されます。このように二次相続を見越した活用も可能です。

 

◇配偶者居住権のデメリット

配偶者居住権にはデメリットもあります。以下主に考えられる4つのデメリットについて考えていきます。

1配偶者居住権は譲渡できない

配偶者居住権は配偶者を保護する目的のため、他人に譲渡できません。配偶者居住権を取得した後に介護施設へ入居することになった場合でも、配偶者居住権を売却することは認められません。所有者の同意があれば第三者へ賃貸できるので、賃料を得ながら介護施設に入居することは可能です。

 

2途中で配偶者居住権を取り消すと所有者に贈与税がかかる

配偶者居住権は基本的に配偶者が亡くなるまでの終身の権利ですが、あらかじめ期間を設定することもできます。配偶者が亡くなるか、設定した期間を経過すると権利は消滅します。しかし、期間の途中で権利を取り消したり、義務違反によって消滅したりした場合には、所有者に贈与税が課されることがあります。

 

3配偶者が若いと配偶者居住権の評価額が高くなる

配偶者居住権の評価計算には、設定年数が関わってきます。設定年数とは、権利が消滅するまでの年数のことで、配偶者が亡くなるまでの期間とした場合は平均寿命をもとに割り出します。設定年数が長いと配偶者居住権の評価は高くなります。配偶者が若い場合には、配偶者居住権を取得しても他の財産を相続できなくなる可能性があるので、シミュレーションして検討するのがいいでしょう。

 

4小規模宅地等の特例が使えない可能性がある

配偶者居住権は建物に対しての権利ですが、建物が建っている土地の利用権も合わせて考えます。相続税の優遇措置の一つである小規模宅地等の特例は、土地の評価額を最大80%減額できます。この特例は配偶者居住権の土地利用にも適用可能です。同じように、土地の所有権にも小規模宅地等の特例は適用します。適用を受けるには、要件を満たさなければいけません。被相続人と同居の親族が要件のため、同居していない場合は所有権において小規模宅地等の特例は利用できません。

小規模宅地等の特例の要件を満たしていて、土地の面積が上限の330㎡を超えるときには、配偶者居住権の土地利用と所有権のどちらを優先して適用するのか判断が必要になります。

 

例として、400㎡の土地で考えてみましょう。

・土地の面積:400㎡

・敷地利用権の価格:800万円(配偶者居住権の敷地利用)

・敷地所有権の価格:1200万円

 

①それぞれの価格に応じた面積を求めます。

400㎡×800万円÷(800万円+1200万円)=160㎡(敷地利用権の面積)

400㎡×1200万円÷(800万円+1200万円)=240㎡(敷地所有権の面積)

 

②敷地利用権を優先した場合

敷地利用権の評価額:160万円(計算式800万円-800万円×80%)

敷地所有権の評価額:520万円(計算式1200万円-1200万円×170㎡÷240㎡×80%)

 

③敷地所有権を優先した場合

敷地利用権の評価額:440万円(計算式800万円-800万円×90㎡÷160㎡×80%)

敷地所有権の評価額:240万円(計算式1200万円-1200万円×80%)

 

配偶者は税額軽減の特例があるので、敷地所有権を優先して適用すると税負担を抑えられます。

 

◇配偶者短期居住権との違い

配偶者居住権と似て非なるものに、配偶者短期居住権があります。被相続人が所有していた建物に最低6か月間無償で住める権利です。遺産分割協議などがまとまるまで、配偶者の居住を一時的に保護する目的のため、登記はできません。また、遺言書での遺贈なども不要です。配偶者短期居住権は相続税の対象となりません。

 

◇最後に

配偶者居住権は、建物の所有者である夫婦の一方が亡くなったときに、相続として発生する権利です。

取得できるのは亡くなった方の法的な配偶者のみで、他に譲渡はできません。配偶者居住権は配偶者が亡くなると消滅します。ただし、期間の途中で取り消すと所有者に贈与税が課されることもあります。

配偶者の年齢が若いと、配偶者居住権の評価額が高くなるので慎重に検討する必要があります。他の特例との関係も踏まえて税理士や相続の専門家に相談することをおすすめします。

 

主な対応エリア:名古屋市北区・名古屋市守山区・名古屋市西区・春日井市・北名古屋市

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