更新日:2023.12.12
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2019年に施行された新しい権利である、特別寄与料について解説します。
特別寄与料と寄与分は何が違うのかお分かりでしょうか。同じだと思っている方も多いですが、実は全く異なる権利です。
この記事では、特別寄与料を請求できる人や請求方法、気を付けるべきポイントについてまとめていますので参考にしてください。
被相続人(亡くなった方)に対して、無償で療養看護を行っていた人が相続人に請求できる金銭を、特別寄与料といいます。
特別寄与料は2019年7月1日に施行された相続法で制定された新しい権利です。
例えば、相続人である長男の妻Dが被相続人の介護を行っていた場合で考えてみます。Dは相続人ではないため遺産分割を受けることができません。2019年7月1日より前では、Dが財産を受け取るには被相続人が遺言書を残しておくしか方法がありませんでした。
そこで制定されたのが特別寄与の制度です。この制度により、Dのような相続人以外の親族も貢献度に応じた財産を請求できるようになりました。
一方、法定相続人が被相続人に行った特別な貢献は「寄与分」として認められています。「特別寄与料」と「寄与分」は言葉が似ているので混同されがちですが、異なる概念です。
寄与分を主張できるのは法定相続人だけです。つまり、上記の長男の妻Dは寄与分としては主張できません。また、寄与分は被相続人に行った療養看護の他、被相続人の財産を増加させたり維持したりした行為に対しても認められます。例えば、被相続人の事業を子どもがほとんど無償で手伝っていた場合や、夫名義の不動産のローンを妻の収入で支払っていたという場合です。
ただし、親子などの親族間には扶養義務が、夫婦には扶助義務があるため義務の域を超える特別な貢献をしなければ寄与分は認められません。特別寄与料が新設されてもこの寄与分の考え方は残りますので、対象となる貢献の範囲など間違えないように注意が必要です。
特別寄与料を請求できる人の要件について説明します。
特別寄与料を請求できるのは、法定相続人以外の民法上の親族です。民法上の親族とは、6親等内の血族と、3親等内の姻族と定められています。
血族というのは被相続人と血縁関係のある人です。被相続人の両親や兄弟、子どもが該当します。6親等内というのは、簡単にいうと「6世代違い」となるため相当広い範囲まで及ぶことになります。
姻族とは、被相続人の配偶者の血縁者です。被相続人と血縁関係にはありませんが、配偶者との婚姻によって親族とみなされます。こちらはひ孫や甥姪といった3世代違いまでが範囲となります。
請求の範囲に該当する人でも、相続放棄や相続欠格によって相続権を失った人は請求できません。また、内縁や事実婚といった法的な婚姻関係にない人、家政婦やヘルパーにも請求権は認められません。
特別寄与料として請求できる行為は、療養看護やその他の労務提供に限られます。寄与分では認められる金銭の貢献は含まれません。
注意が必要なのは無償であるという点です。療養看護を行う代わりに報酬を受けていた場合は、特別寄与料は認められません。ただし、その報酬額が著しく低い金額であったときは特別寄与料を請求できると考えられます。
療養看護や労務の提供を行うことで、被相続人の財産の維持や増加に貢献していたということも、特別寄与料に相当します。特別寄与料は金銭での貢献は認められないため、療養看護によって介護費用の削減ができたといったことが考えられます。
特別寄与料はどのようにして算出するのかを、療養看護と家業の手伝いの2つの場合に分けて解説していきます。
療養看護をしていた場合は、裁判所での計算例を参考に算出する方法があります。ただし、あくまでも目安であり、必ずその額を請求できるというわけではありません。
計算方法は下記の通りです。
【第三者が療養看護を行ったときの日当額×日数×裁量割合】
日当額とは、介護報酬基準額等を参考にして決めます。裁量割合は介護専門職ではない親族が行ったということを考慮したもので、0.5~0.8の割合をかけて求められます。
無償で被相続人の事業に従事していた場合の特別寄与料の計算には、一般的に下記の式を用います。
【通常支給される給与額×(1-生活費控除割合)×期間】
通常支給される給与額は、厚生労働省が行う「賃金構造基本統計調査」いわゆる賃金センサスを基に職種や規模、年齢に応じて割り出します。生活費割合は、家業の場合労働に対する報酬が家業から支出されることが多いため、その分を割引くという考え方です。生活費の一切も受けていないときには、この割合は入れずに計算します。
特別寄与料の明確な決まりはありません。上記の計算方法もあくまで目安となる額を割り出すためであり、相続人との話し合いで決める場合には、療養看護や役務を提供していた期間、程度、遺産の額などを考慮して決定することになります。
特別寄与料は相続人に対して請求しますが、その請求方法は下記の通りです。
相続人と特別寄与料を請求する人で協議を行います。特別寄与料の額には決まりがないため、割り出した金額がそのまま受け入れられるとは限りません。相続人の立場からすると自分の相続額が減ることになるので、話し合いが難航することも多々あります。
当事者間の話し合いで折り合いがつかなかった場合は、裁判所へ調停の申立てを行います。調停では当事者双方の主張を調停委員が聞き、解決案が提示されます。調停で話し合いがまとまらないときは、審判へと進みます。審判では裁判官が資料に基づき判断を決定します。
申立てができるのは、特別寄与料を請求する人です。申立て先は相続人の住所地にある家庭裁判所または当事者が合意で決めた家庭裁判所となります。
申立てに必要な費用は下記の通りです。
・申立人1人につき収入印紙1200円分
(相手方又は被相続人が2人以上の場合は「収入印紙1200円×相手方の人数×被相続人の人数」)
・連絡用の郵便切手(裁判所によって異なるため、申立てを行う裁判所に確認)
申立てに必要な書類は下記の3点です。
・申立書1通とその写しを相手方の人数分
・申立人、相手方の戸籍謄本
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
特別寄与料を受け取ったり支払ったりした場合、相続税の取扱いはどのようになるのか説明します。
特別寄与料を受け取った人は、相続税法上、被相続人から遺贈されたという扱いになります。つまり、相続税を支払わなければなりません。
相続税法では被相続人の1親等内の血族か配偶者以外の相続人は、相続税額に2割加算することが定められています。特別寄与料を受け取れる人はこの2割加算の対象者となるため、相続税額の計算では注意が必要です。
また、申告期限は特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日から10か月以内となっています。
特別寄与料を支払った人は、相続財産の価額から支払った特別寄与料分を差し引いて税額を計算します。既に相続税を納めている場合は、特別寄与料の額が確定した日の翌日から4か月以内に税務署へ「更正の請求」を行うことで還付を受けられます。
特別寄与料の請求には主に3つの注意点があります。それぞれについて説明します。
特別寄与料の請求額には上限があります。遺産の総額から遺贈額を引いた残りが特別寄与料の上限額です。例えば、遺産総額1,000万円で遺贈額が600万円であった場合、残りの400万円が特別寄与料として請求できる額になります。特別寄与料よりも遺贈を優先させる考え方があるためです。
特別寄与料の請求は、特別寄与料の請求者が相続の開始および相続人を知った日から6か月以内と定められています。裁判所への申立ても、相続の開始および相続人を知った日から6か月または1年以内となっていますので注意が必要です。
特別寄与料を認めてもらうためのハードルは非常に高いといえます。当事者同士の話し合いや調停で提出できるよう、療養看護の記録や費用のメモ、領収書の保管は必須です。
2019年7月1日から新たに定められた特別寄与料について説明しました。
法定相続人が主張できる「寄与分」とは異なる制度ですので、混同には注意してください。また、特別寄与料を受け取る場合も支払う場合も相続税が関係してくるため、少しでもわからないことがあれば税理士に相談することをおすすめします。
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